STANAG 7221動作概要
ここでは、STANAG 7221の動作概要を説明します。
STANAG 7221は、1553Bと同じバス配線上で共存するように設計された通信システムです。 これは1553B周波数帯域外で動作し、1553Bノイズ環境に適応するように設計されていることを意味します。 シャノンの定理によると、スループットは電力と帯域幅によって制限されます。 そのため、1553Bと干渉せずに7221で使用されている100 Mbps PHYレートを達成するために電力は40 MHzの帯域に拡散され、 特定の周波数での信号レベルが低下します。図に1553Bと7221の周波数帯と相対電力レベルを示します。
7221と1553Bのパワース・ペクトル密度
STANAG 7221では、MCW(Multi Carrier Waveform)方式を採用しており、これは一般的にOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing):直交周波数分割多重方式と呼ばれる方式と同義です。 この通信方式は今日の地デジ放送や有線/無線のブロードバンド・インターネットなどに広く応用されています。
1553Bが使用している周波数帯域は5 MHzまでの帯域です。25~65 MHzの空いている帯域に、 出来るだけ多くの情報を伝送するためにはマルチキャリア変調方式が有利です。 この方式は異なる周波数が割り当てられた複数のサブキャリア(マルチキャリア)に異なるデータを変調し、 それぞれのキャリアを合成(多重化)して行います。OFDM方式では、隣り合ったサブキャリアは直交性のために干渉を受けにくい特徴があります。 これによりサブキャリアの間隔を狭くでき周波数軸上で重なりが生じる程に密にサブキャリアを並べられるので数を増やすことが可能です。 サブキャリアどうしは高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて効率的に区別できます。
OFDMのメリットとして次の点があげられます。
- サブキャリアを多くとれるので周波数の利用効率が高い
- 長い銅線による高周波の減衰、マルチパスによる狭帯域干渉や周波数選択性(フェージング)等に強い
- 複雑なフィルタ回路なしでも悪い伝送路(チャネル)状況に対応できる
STANAG 7221では、下図のように25~65 MHzの帯域を5 MHz幅の8つのサブバンドに分割し、 さらにサブバンドの中には64のトーン(一般的にはキャリアと呼ばれるが、STANAG 7221ではトーンと定義)により構成され、 各トーンは78.125 kHzずつ周波数をずらして配置されています。
STANAG 7221サブバンドとトーン
複雑なチャンネル
1553B配線は1 MHz信号用に最適化されています。 より高い周波数では、ケーブル長、スタブ位置、および、スタブ長によって引き起こされる信号の反射がチャンネルに大きな影響を与える可能性があるため、 伝送線路の問題が受信信号強度減衰の要因になります。 つまり、25~65 MHzの7221周波数帯域では、転送される信号レベルは周波数の関数として変化します。下図は、航空機の2つのLRU(Line Replaceable Units)間の7221信号に対する一般的なチャンネルの影響を示しています。
チャンネルの影響を受ける受信電力
使用可能な信号は、チャンネルを介して転送される信号と環境内のノイズの関数です。 ノイズは他のLRU、電磁アクチュエーター、モーター、および、1553B伝送からも発生する可能性があります。 ノイズは周波数と時間の両方で変化します。下図は、上図と同じチャンネルと標準的なノイズ外形を示しています。
ノイズのある受信チャンネル
複雑なチャンネルの最適化
STANAG 7221は、実証済みの技術と方法を使用してこの複雑な環境のために特別に設計されました。 直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を使用して、 動作帯域は、512個の個々搬送波(STANAG 7221ではトーンと定義される)に分割されます。 トーンは78.125 kHzの間隔で配置され、独立して変調されています。 これにより、変調レベル(または、その上にエンコードされたデータの量)を各トーンに対して個別に設定できます。
プロトコルの一部として、各トーンに挿入される情報量は、チャンネルに適用されるため、最大量のデータを確実に転送できます。 データ転送を成功されるためには、送信ターミナルと受信ターミナルの両方が同じトーン・ローディングを使用しなければなりません。 トーンマップは、各トーンにエンコードされた変調レベルまたは、データ・ビット数を指定するために使用されます。
図は、前の説明にあるように使用したサンプル・チャンネル用に作成されたトーンマップを示しています。 これは、トーンマップを作成する方法の一例です。例は閾値ベースです。 ノイズが変化するにつれてチャンネルは時間とともに変化するので、各トーンはそのマージンのために確保されたその信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)の一部を有します。 残りのSNRはその後、いくつのビットを割り当てることができるかを決定するために使用されます。
この例の最高周波数トーン(図2-5 65 MHz付近の青線)では、SNRが1ビット/トーン閾値を超えていますが、 2ビット/トーン閾値を下回っています。したがって、これらのトーンは1ビット/トーンとして割り当てられます。
チャンネルのトーンマップ例
実際のチャンネルのトーンマップは、ターミナルがテーブルとして保持しています。 これらを参照するには、Edgewaterが提供するSDKに含まれるXi Modem Test Utilityツールを使用して ネットワーク・カードのシリアル・インターフェイスと接続します。それにより、下図のようなトーンマップとして取得することが可能です。
Xi Modem Test Utilityツールによるトーンマップ表示
前述のように、チャンネル特性はケーブル長とスタブによって左右されます。 これは航空機の各リンクによって異なります。LRUが観測するノイズはローカル環境に依存するためノイズも可変です。 これは、各リンクの使用可能チャンネルが異なること、そして使用可能チャンネルが方向に基づいて2つのLRU間で異なる可能性があることを意味します。 したがって各リンク、および、各リンク方向は、独立して定義され維持されたトーンマップを有することになります。
航空機がモードを変更したり、武器を落としたりすると、ノイズとチャンネルの両方が時間とともに変化する可能性があります。 変化する状況に適応するためにトーンマップも時間とともに変化させる必要があります。 これは、バスの特性を学習し、ターミナル間で共通のトーンマップを維持するためにターミナルが使用するメカニズムである「トレーニング」の概念につながります。 チャンネルを学習するために、既知のデータ・パターンまたは、「トレーニング・フレーム」がターミナルによって送信されます。
バス上の他のターミナルはこの既知のデータを受信し、それを使用してチャンネルを特徴づけます。 受信ターミナルは、これと以前のトレーニング・フレームに基づいて最適なトーンマップを計算します。 作成されたトーンマップはトーンマップ・メッセージを使用して後続のデータ送信に使用するために送信ターミナルに送信されます。
この機能の大部分はターミナルによって実行されるため、ユーザー・アプリケーションは関与しません。 これが影響するのは、バス・スケジュールの定義です。 トレーニング・フレームとトーンマップ・メッセージの両方にスケジュール内の時間を割り当てる必要があります。 ターミナルごとのトレーニング・フレームとリンク方向ごとのトーンマップ・メッセージの頻度も指定する必要があります。
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