航空・宇宙関連の電子機器で使用される特殊なデータバス、スタンダード(標準)について紹介します。

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Extend-1553(STANAG 7221元規格)とは

Extend-1553(STANAG 7221元規格)の概念

高速のデジタル通信としては、イサーネットやファイバーチャンネルなど軍事用の機体に搭載実績があるものが存在する。 Extended-1553の基本コンセプトは、今あるワイヤを利用して機体の近代化/機能向上を目的にした高速デジタル通信へアップグレードする事である。 航空機に新たにワイヤを追加するには再設計や機体全体の試験などで大きなコストが必要である。Extend-1553(STANAG 7221元規格)の構成例を図1に示す。

  • ★: ユニットにExtended-1553が組み込まれ、100Mbpsの通信が可能
  • ◎: ユニットは従来の1553Bで、Extended-1553とは独立しており影響を受けないバス

ケーブルの実力

MIL-STD-1553Bで使用されているケーブルは、伝送媒体(データ・バス)は、メイン・バスと多数のスタブから成るツイスト・シールド・ペア伝送線として定義されます。 バスに接続した端末毎に1つのスタブが存在します。 メイン・データ・バスは、ケーブルの特性インピーダンスに等しい抵抗(±2%)を持つ終端で終結します。 この終端は、データ・バスを電気的に無限伝送線路のように振舞わせます。


表2 伝送媒体特性の概要
ケーブル・タイプ ツイスト・シールド・ペア
静電容量 最大 30.0 pF/ft、wire to wire
固有インピーダンス 70.0~85.0 Ω、1 MHz
ケーブル減衰 最大 1.5 dB/100 ft.、1MHz
ケーブル・ツイスト 最小 4 Twists / ft.
シールド・カバー 最小 90%(Notice2)
ケーブル終端 ケーブル・インピーダンス(±2%)
直結スタブ長 最大 1 ft
XFMR変圧器スタブ長 最大 20 ft

MIL-STD-1553のコントローラを扱うDDC 社(Data Device Corp.)の Michael G. Hegarty氏のリポートによると、 MIL-STD-1553の通信路容量(Shannon Capacity)は、バスの構成にも依存するが 332~811Mbpsの実力があり、通信自体がミリタリー仕様と言うことでかなり高性能な(高級な)ワイヤを採用している。 にもかかわらず、MIL-STD-1553ではその帯域の一部しか使用していなかったことになる。 この点に着目して、使用していないバンド幅をフルにしようとしたのがExtend-1553(STANAG 7221元規格)である。図2はExtend-1553(STANAG 7221元規格)のコンセプトを表現したものです。



ADSL技術の転用

現在のインターネット接続環境を見ると光ファイバーや高速無線通信が当たり前になっている。 しかし2000年頃には通常のアナログ電話回線(PSTN:ツイストペア)を使用して9600bps/14.4kbps/56kbpsなどのモデムでインターネット通信が行われていた時代だった。 その時ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)が登場して、インターネット通信が一気に高速化された事実がある。

ここで重要な点が2つある、1つ目は既存のアナログ電話回線を使ったという点、2つ目は既存のアナログ通話を活かしつつ高速デジタル通信を追加したという点である。 その後2005年頃からFTTH(Fiber To The Home)の光通信が登場し始めたが、光通信網を構築してサービスエリアを拡大するには多大なコストと時間を必要とした。 FTTHは2010年には35%の世帯普及率となりつつあるが、それまでの間にADSLの果たした役割は大きかったと言える。 ここで紹介するExtend-1553(STANAG 7221元規格)は基本的にはADSLの技術の転用である。

既存のケーブルを利用して空いているデータ転送領域(または使われていなかった周波数帯域)を活用して、新たなデジタル高速通信を追加する技術である。 ADSLでは電話で話しながらインターネットのデジタル通信が可能であった点は、Extend-1553(STANAG 7221元規格)が従来の1553Bに影響しないで共存できる点と似ている。 表3にADSLとExtend-1553(STANAG 7221元規格)の比較を示す。

表3 ADSLとExtend-1553(STANAG 7221元規格)の比較
ADSL Extended-1553 V1.1
サブキャリア 512トーン/4KHz間隔
下り:448-480トーン
上り:32-64トーン
FDD(周波数分割複信)
512トーン/76Khz間隔
8サブバンドで各64トーン
TDMA(時分割多元接続)
トレーニング 連続トレーニング
開始時に受け側で制御
連続トレーニング
バスのスケジュール制御
ポイントの数 2か所(ポイントトゥポイント) マルチドロップ RT×64個まで
トーンマップ トーンあたり可変ビット数 トーンあたり可変ビット数
古い信号との共存 音声帯域の信号と共存が可能 MIL-STD-1553Bとの共存が可能
エラーコレクション トレリス符号化変調+リードソロモン 符号連結畳み込みリードソロモン



マルチキャリア方式/OFDMの技術について

ここで、ADSLやExtend-1553(STANAG 7221元規格)で使われているマルチキャリヤ方式やQAM直角位相振幅変調( Quadrature Amplitude Modulation)について説明する。 MIL-STD-1553Bが使用している周波数帯域は5MHzまでの帯域である。先の“ケーブルの実力”で述べたようにMIL-STD-1553Bの通信路容量としては300M程度まである。 そこでマルチキャリア変調方式を利用してより多くのデータを転送するのがExtend-1553(STANAG 7221元規格)の基本概念である。 さらに隣り合ったサブキャリアが干渉を起こしにくくて、より多くにサブキャリアを使えるOFDM方式(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)を利用している。 

ウィキペディアの“OFDM”のページには次のような説明があるので参照していただきたい:
データを多数の搬送波(サブキャリア)に乗せるのでマルチキャリア変調に属する。 これらのサブキャリアは互いに直交しているため、普通は周波数軸上で重なりが生じる程に密に並べられるにも関わらず、従来の周波数分割多重化方式(FDM)と異なり、互いに干渉しない利点がある。 サブキャリアは高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて効率的に区別できる。OFDMは広帯域デジタル通信において、無線/有線の区別を問わず広く使われている。 具体的な応用としてデジタルテレビや放送、ブロードバンドインターネット接続が挙げられる。各々のサブキャリアは直交振幅変調(QAM)等の従来通りの方式で、低シンボルレートで変調される。 この段階でのデータレートは、同じ帯域幅のシングルキャリア変調と比較すると同程度である。では主要な長所は何かと言うと、複雑なフィルタ回路なしでも悪い伝送路(チャネル)状況に対応できる点である。 具体的には長い銅線による高周波の減衰、マルチパスによる狭帯域干渉や周波数選択性(フェージング)等に強い。 OFDMは、高速の変調を受けた単一の広帯域幅信号ではなく、ゆっくりとした変調を受けた多数の狭帯域幅信号を使っているとみなせる。 このためチャネルのイコライザーは簡易で済む。シンボルレートが低いおかげでシンボル間のガードインターバルが利用できるため、時間軸上での拡散への対処や、符号間干渉(ISI)の除去が可能になる。 さらにシングルキャリアネットワークの構成が容易になる利点もある。 これは遠距離にある複数の送信機からの信号同士が強め合うように重ね合わせることができるためである

従来の1553BとExtend-1553(STANAG 7221元規格)の共存

従来のMIL-STD-1553とExtend-1553(STANAG 7221元規格)の共存を考えるとき2つのトポロジーが考えられる。 1番目は従来からの搭載機器(LRU)にEtended-1553を追加して同じスタブからの信号をシェアーする場合。 この場合は新しいExtend-1553(STANAG 7221元規格)のNIC(ネットワークインタフェースカード)にPTF(パススルーフィルター)を載せて、そこからの信号を旧1553Bへ接続することになる。 図参照。ADSLではスプリッタを用いて音声電話帯域とデータ通信帯域を分けて同時通信を可能にしていた。Extended-1553のPTFの役目と同様である。



搭載機器(LRU)が新旧の両方の1553ノードとの通信が必要な場合は、両方のNICを持つ必要がある。この場合スタブからの1つの接続をこのPTFで振り分ける接続になる。

2番目は同じバス上に別の搭載機器(LRU)に新旧の1553が存在する場合である。この場合は特別にフィルタなどを追加しなくても新旧の1553の信号が干渉しないことは確認済みである。 ここにExtend-1553(STANAG 7221元規格)の動作検証も例を示す。いずれの場合も実機で使われている搭載コンピュータとの動作検証である。

  • 実機での飛行試験
    • A-3 : 2006年にフライト1
    • F-16 : 2007年にフライト
  • 安全性インテグリティレベル(Safety Integrity Level)での試験
    • C-17:90mのケーブル上に20台の搭載機器(LRU)を繋いでの検証試験
    • アパッチ:20mのケーブル上に15台の搭載機器(LRU)を繋いでの検証試験
    • これらの他にF-18、C130、EH-10 などの機体でも動作検証行われた

Extend-1553(STANAG 7221元規格)のプロトコルレイアーとフレーム

Extend-1553(STANAG 7221元規格)のプロトコルレイヤーを説明する

  • レイヤー1 :PHY 物理層
  • レイヤー2 :DLL(データリンクレイヤー)は次のサブレイヤーからなる
    • MAC(Media Access Control)、PAL(Packet Adaption Layer)
    • LABEL Layer、MM(MAC Management Layer)



Extend-1553(STANAG 7221元規格)上のMCWには次の2つの信号が定義されている

  • BR(Basic Rate)基本レート
    • 最も安定しているレート(1~5Mbps)で、ネットワークのブートやフレームコントロールなどを行う。バイナリ―シフトキーイングで全てのRTが理解できる
  • VBR(Variable Bit Rate)可変ビットレート
    • BRよりも高速通信で使われ信号で、コヒーレントQAMを使う

Extend-1553(STANAG 7221元規格)の基本的なフレームの構造を図7に示す。



VBR可変ビットレートはトレーニングにより帯域幅の利用を最大限に生かすためにトーンマッピングが行われる。 図8で示される各サブチャンネルのレベルはフラットになっているが実際は周波数が高くなるにつれてレベルが低くなる。 トーンマッピングはRT ペアで行われ、MACマネージメントの中のトーンマップメッセージで行われる。 次にMACフレームのタイプを示す。

  • BCF(Bus command frame)
  • TRF(Terminal response frame)
  • TAF(Terminal acknowledgement frame)
  • MMF(MAC management frame)
  • TF(Training frame)
  • ATF(Arbitrary test frame)


他の高速通信に対する優位性

Extend-1553(STANAG 7221元規格)以外の高速通信を採用する場合とのコストの比較を下の表に示す。 例として戦闘機(F-16 Blk50、200機分)の搭載ユニット2個(コックピットディスプレイとミッションコンピュータ)をExtend-1553(STANAG 7221元規格)対応に置き換えた場合の総費用の比較である。 これはあくまでEdgewater社の試算であることをコメントしておく。

Extended-1553 Giga Ethernet Fiber Channel
NREコスト $1,049K $1,279K $1,279K
組込み費用 $1,641K $65,898K $65,898K
部材代金 $8,775K $3,636K $43,425K
スペア代金 $2,193K $9,090K $10,856K
購買や管理費 $1,645K $6,817K $8,142K
全費用 $15,304K $119,445K $129,601K

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