航空・宇宙関連の電子機器で使用される特殊なデータバス、スタンダード(標準)について紹介します。

03-5921-5099
営業時間/9:00~17:30 定休日/土日祝
ホームデータバス/規格ARINC 664/AFDX概要 ページ

概要

前史

1988年のエアバスA320の商業機サービスへのその導入以来、全電化フライバイワイヤ・システムは、新しい旅客機で使用される唯一の制御システムとなりつつあるくらい人気を得ています。

しかし、高信頼性、高速通信等を必要とする機上の慣性プラットフォーム、通信システム等、他のシステムのホストが存在します。 特に制御システム、およびアビオニクスは、送信元からタイムリーに受信機に配送される完全かつ最新のデータを持つことに依存しています。 安全性重視システムにとって、信頼できるリアルタイム通信リンクが不可欠です。

そこで、AFDXが役立つところです。そのA380機の発展においてエアバスにより始められたものは、アビオニクス全二重スイッチング・イーサネット、AFDXという用語を創り出しました。 AFDXは、高速データ伝送のような数多くの改善を、ホスト・エアフレームに関しては、配線の著しい減少、したがって、配線と付随する重量の減少をもたらしています。

AFDXとは何か?

アビオニクス全二重スイッチング・イーサネット(Avionics Full DupleX Switched Ethernet、AFDX)は、アビオニクス・サブシステム間のデータ交換用の電気、 およびプロトコル仕様を定義する標準(IEEE 802.3、およびARINC 664, Part 7)です。その前身であるARINC 429よりも1千倍早く、エアバスにより導入されたオリジナルのAFDXの概念をベースにしています。

AFDXがそのように魅力的な技術である理由の1つは、1972年のその発端以来、継続的に改善されている成熟した技術であるイーサネットに基づいていることです。 実際、イーサネットへの商業投資と進歩は、ARINC 429、MIL-STD-1553、および他の専用データ通信技術と比較して言えば莫大なものです。

AFDXネットワーク

図1 AFDXネットワーク


図1に示されているように、AFDXシステムは、以下の要素から構成されます。

アビオニクス・サブシステム:

飛行制御コンピュータ、全地球測位システム、タイヤ圧監視システム等のような在来の機上アビオニクス・サブシステム。 アビオニクス・コンピュータ・システムは、アビオニクス・サブシステムに計算環境を提供します。 各アビオニクス・コンピュータ・システムは、アビオニクス・サブシステムをAFDXインターコネクトに接続する組込エンドシステムを含みます。


AFDXエンドシステム(エンドシステム):

アビオニクス・サブシステムとAFDXインターコネクト間の「インターフェイス」を提供します。 各アビオニクス・サブシステムのエンドシステム・インターフェイスは、他のアビオニクス・サブシステムとの安全かつ信頼できるデータ交換を保証します。 このインターフェイスは、シンプルなメッセージ・インターフェイスを介して、 他の各々と通信することを可能とする各種アビオニクス・サブシステムにアプリケーション・プログラム・インターフェイス(API)をエクスポートします。


AFDXインターコネクト:

全二重スイッチング・イーサネット・インターコネクト。これは、一般的にその適切な宛先にイーサネット・フレームを転送するスイッチのネットワークから構成されます。 このイーサネット・スイッチング技術は、従来のARINC 429の単方向、ポイント・トゥ・ポイント技術、およびMIL-STD-1553バス技術からの離脱です。 図1の例で示されているように、2つのエンドシステムは、3つのアビオニクス・サブシステムに通信インターフェイスを提供し、3番目のエンドシステムは、 ゲートウェイ・アプリケーションにインターフェイスを供給します。同様に、アビオニクス・サブシステムと外部IPネットワーク間の通信パスを提供し、一般的に、 データのローディングとロギング用に使用されます。

イーサネット

イーサネットの起源、イーサネット・フレーム・フォーマット、およびアビオニクス・アプリケーションにおけるスイッチング・イーサネットの役割について説明します。

ALOHAネット

1970年、ハワイ大学は、異なる島に位置する局間のデータ通信を提供するために、「ALOHAネットワーク」[Norman Abramson;図4参照]と呼ばれるパケット無線システムを導入しました。 局中に集中制御はありませんでしたので、衝突(2以上の局の同時送信)の可能性が存在していました。

ALOHAネット

図4 ALOHAネット


ALOHAプロトコル

  • 送信すべきメッセージがあれば、メッセージを送信する
  • メッセージが他の送信と衝突した場合、バックオフ戦略を使用して後でメッセージの再送信を試みる

問題

  • 中央調整なし
  • 衝突は、非決定的な挙動を導く

イーサネット・ローカル・エリア・ネットワーク(ブロードキャスト・メディア)

1972年、Xerox Palo Alto研究センターのRobert MetcalfeとDavid Boggsは、ALOHAネットワークの構想を確立し、通信媒体として同軸ケーブルを使用する、イーサネットを発明した(図5参照)。 イーサネットは、集中制御がなく、異なる局(ホスト)からの送信で衝突の可能性があるという意味において、ALOHAプロトコルに類似しています。

イーサネット通信プロトコルは、「CSMA/CD」(搬送波感知多重アクセス/衝突検出)と呼ばれます。搬送波感知は、媒体(同軸ケーブル)がアイドル状態であるか、ビジー状態であるかをホストが検出できることを意味します。 多重アクセスは、複数のホストが共通媒体に接続できることを意味します。衝突検出は、ホストが送信時、その送信が別のホストの送信と衝突しているかを検出することができることを意味します。 オリジナルのイーサネットのデータ・レートは、2.94 Mbpsでした。

イーサネット・ローカル・エリア・ネットワーク(ブロードキャスト・メディア)

図5 イーサネット・ローカル・エリア・ネットワーク(ブロードキャスト・メディア)


イーサネット・プロトコル

  • 送信すべきメッセージがあり、媒体がアイドル状態の場合メッセージを送信する
  • メッセージが他の送信と衝突した場合、バックオフ戦略を使用して後でメッセージの再送信を試みる

問題

  • 中央調整なし
  • 衝突は、非決定的な挙動を導く

カテゴリ5 UTP銅ツイスト・ペアを使用したイーサネット

今日のイーサネットの最も一般的な電気形態は、ツイスト・ペア銅ケーブルの使用に基づきます。一般的に、ケーブルは、ポイント・トゥ・ポイントであり、スイッチに直結したホストを持ちます。 ファースト・イーサネット(100 Mbps)の場合、2ペアのカテゴリ5 UTP銅線が、TxとRxに対して各々使用されます。

送信の場合、データの各4ビットのニブルは、送信に先立ち、5ビットにエンコードされます。これは、「4B/5Bエンコーディング」と呼ばれ、5ビットがデータの4ビット毎に送信されるので、125 Mbpsの送信クロック周波数となります。 5ビットに4ビットの2倍のパターンが存在するので、送信される各パターンが、データの信頼できる送信のために良好なクロック同期(0、または1が一列に多すぎない)を提供できることを保証することが可能です。 5ビット・パターンのいくつかは、制御コードを表現するために使用されます。

イーサネット・フレーム・フォーマット

イーサネット・フレーム・フォーマット

図6 イーサネット・フレーム・フォーマット


図6に示すように、IEEE 802.3は、7バイトのプレアンブル、スタート・フレーム・デリミタ(SFD)、イーサネット・フレーム自体、および最低12バイトのアイドル・シンボルから構成されるインターフレーム・ギャップ(IFG)を含めるように、 イーサネット送信のフォーマットを定義しています。 イーサネットのフレームは、6バイトの宛先アドレス、続けて6バイトの送信元アドレス、および型フィールドから構成されるイーサネット・ヘッダで始まります。 イーサネットのペイロードは、ヘッダに続きます。フレームは、送信フレームにおいてビット・エラーを検出するためにフレーム・チェック・シーケンス(FCS)を含み、IFGが続きます。 イーサネットのフレーム長は、最小64バイトから最大1518バイトまで変わります。

イーサネット通信(リンク・レベル)は、コネクションレスです。到達確認は、プロトコル・スタック内のより高度なレベルで取り扱われなければなりません。


半二重スイッチング・イーサネット

半二重モード・イーサネットは、前述したオリジナルのイーサネット・ローカル・エリア・ネットワークの別名です。 説明したように、図5に示した同軸ケーブルの場合のように、複数のホストが同じ通信媒体に接続されるときに問題が存在し、中央調整が存在しません。2つのホストが「同時に」送信し、 それらの送信が「衝突」する可能性があります。このように、ホストが送信衝突を検出できる必要性があります。衝突が発生した(2つ以上のホストが同時に送信を試みている)とき、 各ホストは、そのデータを再送信しなければなりません。明らかに、同時に再送信し、その送信が再び衝突する可能性があります。

この現象を避けるために、各ホストは、データ再送信のための間隔からランダムな送信時間を選択します。衝突が再び検出された場合、ホストは、前回のサイズの2倍の間隔から送信のために別のランダムな時間を選択します。 これは、多くの場合、バイナリ指数バックオフ戦略と呼ばれます。

イーサネットに中央制御がないので、バイナリ指数バックオフ戦略におけるランダム要素にもかかわらず、理論上、パケットが繰り返し衝突する可能性があります。 これが意味することは、単一のパケットの送信を試みようとすると、衝突の無限の連鎖が起こり、パケットの送信が決して成功しない可能性があることです。

したがって、半二重モードにおいては、衝突のために非常に大きな送信遅延が起こる可能性があります。この状況は、アビオニクス・データ・ネットワークにおいて受け入れられません。

そのため、要求されたこと(そして、AFDXで実装されたこと)は、1パケットがその目的地に到達するのにかかる時間の最大量が知られているアーキテクチャでした。これは、競合のシステムの除去を意味しました。


ドゥーイング・アウェイ・ウィズ・コンテンション

競合(衝突)を避け、したがって、パケットが送信機から受信機まで移動するのにどの位かかるのかという不確実性を避けるために、全二重スイッチング・イーサネットに移行する必要があります。 全二重スイッチング・イーサネットは、半二重ベースのイーサネットを使用した時に起こるような送信衝突の可能性を除去します。 図7に示すように、オートパイロット、ヘッドアップ・ディスプレイ等、各アビオニクス・サブシステムは、送信(Tx)用1ペアと受信(Rx)用1ペアの 2つのツイスト・ペアが構成する全二重リンク上のスイッチに直結されます(スイッチは、大ボックスに含まれる全ての要素から構成されます)。 スイッチは、送受信共にパケットをバッファすることができます。

図7に示すように、スイッチ内で何が起こっているのか、見てみましょう。

 全二重スイッチング・イーサネットの例

図7 全二重スイッチング・イーサネットの例


スイッチにおけるRx、およびTxバッファは共に、FIFO(先入先出)の順番で多重入出力パケットを格納することができます。 I/O処理ユニット(CPU)の役割は、入力Rxバッファから出力Txバッファにパケットを移動することです。 その宛先アドレス(バーチャルリンク識別子)を決定するために、Rxバッファの次の行にある各到着パケットを検査することによりこれを行った後、どのTxバッファがパケットを受信すべきかを決定するために、転送テーブルに向かいます。 パケットは、メモリ・バスを介してTxバッファにコピーされ、選択されたアビオニクス・サブシステム、または別のスイッチへの出力リンク上に送信されます(FIFO順に)。 このタイプのスイッチング・アーキテクチャは、ストア・アンド・フォワードと呼ばれます。

したがって、全二重スイッチング・アーキテクチャでは、半二重イーサネットで直面する競合は、単にアーキテクチャが衝突を排除するため無くなります。 理論的には、Rx、またはTxバッファは、オーバーフローする可能性がありますが、アビオニクス・システムのバッファ要求が適切なサイズであれば、オーバーフローは避けられます。

全二重スイッチング・イーサネットでは衝突はありませんが、パケットは、スイッチにおける渋滞のため、遅延することがあります。

衝突と再送信の代わりに、スイッチング・アーキテクチャは、あるパケットが送信されるべき別のパケットを待つことにより導かれるランダム遅延のため、ジッタをもたらします。 エンドシステム、およびスイッチにより導入されるジッタの程度は、アビオニクス・システム全体の決定論的な動作を達成する場合、制御しなければなりません。

配線の重量の減少

既に説明した機能強化に加えて、AFDXは、ARINC 429と比較して、いくつかの追加の利点をもたらします。図8は、ARINC 429とAFDX間のいくつかの差異を示します。 ARINC 429において、ツイスト・ペアは、慣性プラットフォームから方位信号を受信する各デバイスをリンクしなければなりません。 ARINC 429のポイント・トゥ・マルチポイント、および非同期プロパティは、アビオニクス・システムが各通信パスに対してARINC 429バスを持たなければならないことを意味します。 多くのエンド・ポイントを持つシステムにおいて、ポイント・トゥ・ポイント配線は、主要なオーバーヘッドです。これは、膨大な配線ハーネスと、それに付随して重量が増加します。

しかし、AFDXの場合、図8に示すように、各信号は、たとえ多くのサブシステムが慣性プラットフォームから方位信号を要求しても、1度だけスイッチに接続され、慣性プラットフォームに個別的に接続される必要はありません。

ARINC 429では、送信機は、20台の受信機のみに接続することができます。AFDXでは、慣性プラットフォームからの接続数は、 スイッチのポート数によってのみ制限されます。また、スイッチをカスケードすることにより、接続数は、必要により容易に増加することができます。

AFDX対ARINC 429アーキテクチャ

図8 AFDX対ARINC 429アーキテクチャ

Copyright(C) MIL-STD-1553.jp All Rights Reserved.